a spoonful of...

村上春樹ワールド

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数ヶ月前、yukkoちゃんのブログで村上春樹がバークレーで講演会をする、と聞き即座にポチっとチケットを買った。二十歳の頃から彼の大ファンで出版された本は全部買って読んでいた。こっちに来てすっかり読書自体をする時間が少なくなってしまい、だんだんと彼の本も読まなくなっていたけれど、最近「海辺のカフカ」を借りて読んでまた再燃。日本でも講演なんてしない彼の話しが直に聞けるなんて嬉しすぎ。本人が舞台に「履き慣れたスニーカーに着心地の良い洗いざらしのシャツ」姿で登場した時には鳥肌が立ち、涙が出て来そうなぐらい感動してしまった。

講演会は全て英語で通訳なしで行われた。まずは春樹さんの挨拶から始まり、「カンガルー日和」に掲載されている「とんがり焼きの盛衰」を本人が日本語朗読。その後、東京大学で講師また編集者でもあるRoland Keltsがこれを翻訳された英語( "The Rise and Fall of Sharpie Cakes")で朗読し、その後二人の対談となった。何故とんがり焼きを選んだのかはとんと謎だが、彼らしさが出ている。彼の翻訳された本はまだ読んだ事がないけれど、あまりに春樹さんの書かれた日本語に忠実で、心地よく入って来る英語に、彼の本を英語で読んでみたいと思った。夫も英語の方が音韻を踏んでいて聞き易いと言っていた。日本語と英語のそもそもの違いもあるのだろうけど。

春樹さんは英語から日本語への翻訳を何冊もされているものの、話す英語はそれほど流暢ではない(でも私なんかよりはずっと上手)。それでも会場は爆笑の連続で私も大笑いした。質問に対して短く答える英語だけれど、彼の言いたい事は良くわかった。なぜなら私は日本人だから。その言葉の奥をこちらが察する事が出来るのだ。察する文化だから(あっ、違って察する事も多々ありです)。きっと日本語ならもっと細かい事まで話す事が出来たに違いないのだが、それでも彼の選んで使う英語には、彼らしさがにじみ出ている。テレビを見ていて、街を歩いていて、ビビっと自分が感じたものに答える形で彼の小説は出来上がって行く。が、果たしてアメリカ人には彼の言いたい事が理解出来たのだろうか?それでも講演が終わった後の鳴り止まない大拍手に、みんな満足したのだろうと感じている。

以前は旅行記やエッセイ集をよく出版していた春樹さんだけれど、そして好んでそういう本を読んでいた私だけれど、この頃は長編が多くなってきた。長ければ長いほど良い本だ、と読者は思うらしい。彼が10代の頃好きで読んでいたロシア小説家、ドストエフスキーやトルストイもみんな長編。カラマーゾフの兄弟なんか4回も読み、登場人物の名前を全部言えるぞ、こんな技はごく少数の人間にしか出来ないぞ、と会場を爆笑の渦に巻き込んでいた。

彼の読者はデビュー当時から今でも20代、30代が多いと言う。どこかで村上春樹離れをして行くのだ。彼の創り出す繊細な世界が社会に揉まれているうちに受け入れられなくなる時が来るのだろうか。

彼にとっては書くこと自体が楽しくて、とにかく自分の書きたい事を書く。出版した本が何百万部売れようが本人にとってはそれはあまり重要でないのだ。それよりも毎日ランニングしたり、泳いだり、そば屋で好きなビールを一杯やる方が大切なのだ。

読者に「今度の小説すごくよかったです!」と言われれば「次の本も買ってね」と言い、「あれはすごくつまらなかった」と言われれば「それは申し訳ない。次回は頑張るから、次の本も買ってね」と彼の媚びない淡々とした所も好きだ。と言うか、想像していたまんま。エッセイのまんま。彼の人柄に惚れ惚れする。やっぱり好きだ。

そして私はまた「村上春樹ワールド」にずるずると奥深く魅き込まれて行くのだった。



yukkoちゃんのブログに詳しく講演会の内容が書かれています♪
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by samantha-ca | 2008-10-14 01:59 | EVENT